私たちの社会には、高齢者や障がいのある方、小さな子どもを連れた親、海外からの観光客など、多様な特性やニーズを持つ人々が暮らしています。そうした人々が安心して生活し、自由に移動し、豊かに活動できる環境を整えるために重要な考え方が「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」です。どちらも人々の暮らしやすさを重視した設計思想ですが、両者には目的やアプローチの違いがあります。本記事では、この2つの違いをわかりやすく解説しながら、私たちがより暮らしやすい社会を実現するうえで何を考えるべきかをご紹介します。
バリアフリーとは?
障がいを持つ人の利用を中心に考える
バリアフリーは、主に障がいのある方や高齢者など、身体機能の低下や制限のある人々が利用するうえでの障壁(バリア)を取り除く、または軽減することを目的とした設計思想です。たとえば、車いす利用者のための段差解消や、視覚障がい者向けの点字ブロックの設置、聴覚障がい者向けの音声案内のビジュアル表示などが代表的な例として挙げられます。
個別のニーズに対応する
バリアフリーは、ある特定の課題(段差、狭い通路、点字や手話など)を解消するために、個別の施策を行うという特徴があります。言い換えれば、「必要な人」が「必要な場所」で利用できるよう、ピンポイントの改善策を導入するイメージです。具体的には、介助用トイレの設置、エレベーターへの点字ボタンの導入など、「障がいがある人や高齢者の利用しづらさを解消する」ことに焦点を当てています。
日本での背景
日本では高齢化や障がい者差別解消の流れを受け、公共交通機関や公共施設、商業施設などでバリアフリー化を進める動きが活発になりました。特に高齢化社会の先頭を走る国として、駅のエスカレーター設置や車いす利用者も乗車できる低床バスの導入、段差をなくした歩道など、さまざまな取り組みが行われています。
ユニバーサルデザインとは?
誰もが最初から利用しやすい設計をめざす
ユニバーサルデザインは、障がいの有無や年齢、体格、言語などの違いにかかわらず、できるだけ多くの人にとって使いやすいよう、最初から設計を行うという考え方です。たとえば、段差のないフラットな玄関や、軽い力で開閉できるドア、シンプルで分かりやすい操作パネルなど、特定の集団のみを対象とするのではなく、すべての利用者が直感的に使えるようにデザインされます。
“人に合わせる”ものづくりやサービス
ユニバーサルデザインでは、“特別な対応”をなるべく必要としないようにすることが理想とされます。元から多様な人々を想定し、柔軟かつ包括的な設計を行うことで、特定のユーザーだけでなく、社会全体の快適性・安全性を高めることができるのです。結果として、高齢者や障がいのある方以外にも、子育て世代、外国人旅行者、けがをしている人など、さまざまな立場の人が恩恵を受けられます。
世界的な潮流と先進例
アメリカの建築家ロナルド・メイスが提唱したユニバーサルデザインは、世界的にも認知が進み、公共空間や商品デザイン、建築業界を中心に普及が進んでいます。日本でも、高齢化社会と国際化の進展を背景に、公共施設や商業施設、住宅などにユニバーサルデザインの視点が導入されるようになっています。たとえば、車いす利用者だけでなくベビーカーでも通りやすい改札口や、大人から子どもまで誰でも押しやすいエレベーターボタンなどが普及例として挙げられます。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
- 対象の広さ
- バリアフリー … 主に障がいのある方や高齢者など“支援を必要としている人”が快適に利用できるよう、障壁を取り除く設計。
- ユニバーサルデザイン … 特定の人だけでなく、あらゆる人(高齢者、障がいのある方、子ども、外国人など)をはじめから想定して設計。
- アプローチの仕方
- バリアフリー … “すでにある建物やサービス”に対し、後付けで段差解消や点字案内など、個別の措置を行う場合が多い。
- ユニバーサルデザイン … “最初から”多様な人々が利用できるデザインを織り込み、誰もが使いやすい環境や製品を作り上げる。
- 目的や理念
- バリアフリー … 特定の障壁をなくす、もしくは軽減することに注力。車いす利用者用のスロープを設置するなど、個々の不便解消が中心。
- ユニバーサルデザイン … “誰でも同じように利用できる”ための社会づくりを目指し、包括的な設計やシステムを構築する。
- 恩恵を受ける範囲
- バリアフリー … 主に障がいがある方や高齢者などの利用を想定しており、結果的にそれ以外の人にメリットが生まれることもある。
- ユニバーサルデザイン … 年齢や身体状況、国籍を超えて、社会全体にメリットがある設計を重視。
両者を結びつけることで生まれる相乗効果
バリアフリーとユニバーサルデザインは、どちらが優れているというわけではなく、相互に補完し合う関係にあります。すでにある施設やサービスを改善するアプローチ(バリアフリー)と、新規に設計・開発する段階から多様なユーザーを想定したアプローチ(ユニバーサルデザイン)は、両方とも社会にとって必要な視点です。
- 既存の建物を改善する → まずはバリアフリー対策を優先して段差や使いにくい部分を改修
- 新しく建物や商品を作る → 初めからユニバーサルデザインを採用し、すべての人が使いやすい設計を目指す
このように両方の思想を意識的に活用していくことが、多様な人々が暮らしやすい社会づくりにつながっていきます。
これからの社会に求められる視点
高齢化・多文化社会への対応
日本は世界でも有数の高齢化社会である一方、近年は海外からの観光客や外国人居住者も増え、多文化化が加速しています。認知症高齢者や車いす利用者だけでなく、言葉の壁を感じる外国人にとっても、利用しやすい環境が今後さらに求められます。
技術の進歩とユニバーサルデザイン
自動ドアやセンサー技術、音声アシスト機能など、テクノロジーを活用したユニバーサルデザインも注目され始めています。ICT(情報通信技術)の進歩により、障がいのある人を含むあらゆるユーザーが使いやすいシステムを構築しやすくなっています。これらを積極的に取り入れながら、初めから包括的な設計を行うことで、さらなる利便性と安全性が期待できます。
意識改革と多様な声の反映
法整備や技術開発だけでなく、日常生活の中でバリアフリーやユニバーサルデザインの意義を理解し、互いに協力し合う意識づくりも重要です。実際に困りごとを抱えている人たちの声を聞き、改善点を共有し、社会全体で解決へ導く取り組みが求められます。
まとめ
「バリアフリー」は障がいのある方や高齢者など“支援を必要とする人”のために生まれた概念であり、既存の障壁を取り除くことを主眼としています。一方、「ユニバーサルデザイン」はすべての人が最初から利用しやすい設計をめざすアプローチです。両者は目的やアプローチこそ異なるものの、相互に補完し合いながらより良い社会を築くうえで欠かせない観点となっています。
今後も日本社会は高齢化や多文化化が進行していくことが予想されるため、公共施設や交通機関、住宅、商品デザインなど、あらゆる場面で“誰もが利用しやすいか”をチェックする姿勢が求められます。バリアフリーで既存の課題を解決しつつ、ユニバーサルデザインを取り入れて未来のニーズに応えることで、多様な人々が安心して暮らせる豊かな社会が実現していくのではないでしょうか。
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