「ユニバーサルデザインマーク」は、誰もができるだけ快適に利用できるよう配慮されたプロダクトや施設・サービスなどに付与されるシンボルやマークの総称です。ユニバーサルデザイン(Universal Design)は、障害の有無、年齢、性別、国籍、言語などの違いに関係なく、多様な人々にとって「使いやすい」「わかりやすい」「利用しやすい」ように設計する思想として、世界的に広まっています。そのなかで、「ユニバーサルデザインを意識して設計・製作しました」ということを明確に伝えるために作られるのがユニバーサルデザインマークです。
本記事では、ユニバーサルデザインマークの基本的な概要から、その役割や種類、事例、活用の方法などを分かりやすくまとめていきます。
1. ユニバーサルデザインとバリアフリーの違い
ユニバーサルデザインマークを理解するためには、まず「ユニバーサルデザイン」と「バリアフリー」の違いを押さえておくと役立ちます。
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バリアフリー
もともとある施設や製品の物理的・心理的障壁(バリア)を取り除き、利用しにくい部分を後から改善する考え方を指します。例としては、既存の建物にエレベーターを設置したり、スロープを追加したりすることなどが挙げられます。 -
ユニバーサルデザイン
最初から多様な利用者を想定し、できるだけ多くの人が使いやすい形で設計・デザインする考え方です。後からの改修ではなく、初めから全ての人に配慮する点に特徴があります。「できるだけ多くの人にとって使いやすい形を目指す」ことで、障害者、高齢者、子ども、外国人など、幅広い層に対して優しい環境を作りやすくなります。
ユニバーサルデザインマークは、こうした「すべての人に優しい設計がなされています」という姿勢や実装を示すシンボルとして機能します。
2. ユニバーサルデザインマークとは
2-1. マークの目的
ユニバーサルデザインマークの主な目的は、製品や施設、サービスなどがユニバーサルデザインの理念を踏まえて設計されていることを「視覚的・象徴的」に伝えることです。マークを見た利用者は、そのプロダクトや空間が「使いやすさ」「わかりやすさ」「安全性」などに配慮している可能性が高いと判断しやすくなります。
2-2. デザイン上の特徴
ユニバーサルデザインマークと呼ばれるものは、実は一種類だけではありません。いくつかの団体や企業・自治体が独自に「ユニバーサルデザインに適合した」ことを示すマークを運用しており、それぞれに特徴があります。共通しているのは、以下のような点です。
- 誰が見てもわかりやすい形や色合い
- 「人に優しい」「多様性に開かれた」といった、ポジティブな印象を与えるデザイン
- 「車いす」「シンプルな人の形」「円やハート形の要素」などを用いた、人を象徴的に示すアイコンがよく使われる
もちろん、公共サインやピクトグラムとして国際的に定められたシンボルマーク(例:車椅子マーク)のように、広く認知されているものも含みます。
3. 日本におけるユニバーサルデザインマークの種類
日本国内で「ユニバーサルデザインマーク」として認知されやすい主な例をいくつか挙げます。なお、厳密には「ユニバーサルデザインに関連したマーク」や「ユニバーサルデザイン推進を証明するマーク」まで含めると種類が多岐にわたります。
3-1. 車いすマーク(国際シンボルマーク)
もっともよく知られているのが、車いすマーク(国際シンボルマーク) です。正式には「車いすの障害者のための国際シンボルマーク(International Symbol of Access)」と呼ばれます。世界的に広く使われており、車いす利用者を含む障害のある人が利用しやすい施設であることを示します。ただし、車いすマークは障害者に配慮されていることを示すもので、ユニバーサルデザインのすべてを包含しているわけではありません。
3-2. 企業や業界団体の独自UDマーク
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日本産業規格(JIS)やISOに準拠
製品やサービスにおいて、一定のユニバーサルデザイン基準を満たした際に独自マークを付与する事例があります。例として、家電メーカーが「高齢者や子どもでも使いやすい構造・表示の家電」を開発し、その製品に「ユニバーサルデザイン対応」のロゴをつけるケースなどがあります。 -
自治体やNPOが運営する認証マーク
たとえば自治体が、ユニバーサルデザイン化を推奨する施設に対して認定を行い、認証マークを発行している例もあります。またNPO法人や財団などが、より専門的な視点からUDに取り組む施設や建築物を審査し、合格したものにマークを付与する制度も存在します。
3-3. カラーUD(色覚バリアフリー)に関するマーク
色弱や高齢者など、視認性に違いのある人に配慮した「カラー・ユニバーサルデザイン(Color Universal Design: CUD)」を実践していると示すマークも存在します。色使いを慎重に選んだり、文字や図形のコントラストをしっかり確保したりすることで、誰にとっても見やすい情報提供を行っていることを証明します。
4. ユニバーサルデザインマークが担う役割
4-1. 安心感の提供
ユニバーサルデザインマークを見かけることで、「この施設や製品は多様な人に配慮しているのだな」と利用者が安心する材料になります。特に初めて訪れる場所や初めて購入する製品であれば、UD対応であることが明示されていると大きな安心につながります。
4-2. 情報提供と差別化
ユニバーサルデザインマークを用いると、企業や組織の「ユニバーサルデザインへの取り組み」を分かりやすく伝えられます。結果として製品やサービス、施設の認知度を高めたり、他社製品と差別化を図ったりする効果が期待できます。社会的責任(CSR)の一環としても、UDの取り組みは近年非常に注目されています。
4-3. 法令やガイドラインの遵守
ユニバーサルデザイン関連の法律やガイドラインが整備されつつあるなか、施設や製品の設計段階からユニバーサルデザインの考え方を取り入れることは、企業や自治体にとって重要なポイントです。マークを活用することで、社会的に求められる要件を満たしていることを示しやすくなる場合もあります。
5. ユニバーサルデザインマークの取得・利用方法
5-1. 認証団体や制度に申請する
企業や施設管理者がユニバーサルデザインマークを利用する際には、まずは「どのマークを使いたいか」を決める必要があります。独自の認証制度を持つ団体(自治体やNPOなど)に申請し、基準を満たしたと認められればマークの使用許可を得ることができます。
5-2. 自主的なUDマークの作成
自社や自組織が独自にユニバーサルデザインに配慮した製品やサービスを提供している場合、その取り組みを分かりやすく示すために独自デザインの「UDマーク」を作成することもあります。ただし、あまりにも独特で一般的に認知されにくいデザインだと、利用者が「これはいったい何を意味するマークなのか?」と戸惑う恐れがあります。そのため、多くの人が直感的に「ユニバーサルデザイン対応だ」と理解できるよう、誰にでもわかりやすい要素を盛り込むことが望ましいです。
5-3. 利用時の注意点
- 誤解を与えない運用
本当はユニバーサルデザインの配慮が行き届いていないのに、外見だけ「UDマーク」を貼り付けるのは利用者に誤解を与え、信用失墜につながります。 - 継続的な改善
マークを取得して終わりではなく、利用者の声や社会の変化を踏まえ、施設や製品を定期的に改善していく姿勢が大切です。
6. ユニバーサルデザインマークの具体的な事例
6-1. 鉄道・バスなどの公共交通機関
車いす利用者やベビーカー利用者、高齢者、外国人観光客など多様な利用者がいる公共交通機関では、車いすマークやベビーカーマーク、音声ガイドの利用、点字ブロックの設置など、幅広いユニバーサルデザイン施策が取り入れられています。バス停や駅構内の案内表示にも、ユニバーサルデザインマークを添えてわかりやすく案内しているケースが増えています。
6-2. 大型商業施設や公共施設
大手ショッピングモールや市役所・図書館といった公共施設でも、ユニバーサルデザインに配慮した設備が導入されていると、入口やフロアマップに対応マークが表示されることがあります。たとえば、多目的トイレの「誰でもトイレマーク」、点字案内図、段差解消スロープなどを設置し、それを示すシンボルを使って来訪者にアピールしている事例があります。
6-3. 家電・日用品
ボタンが大きく押しやすいリモコンや、文字表示が見やすい電子レンジ、取っ手が握りやすい調理器具などは、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた製品としてメーカーが独自のUDマークを付与していることがあります。特に高齢者の方や子どもが利用する家庭用品では、UD対応の製品かどうかが購買の決め手となる場合もあります。
6-4. デジタル領域(ウェブサイトやスマホアプリ)
ウェブアクセシビリティの国際ガイドライン(WCAG)などを踏まえて構築されたウェブサイトやスマホアプリには、アクセシビリティ対応やユニバーサルデザイン対応を示すバッジやマークが配置される場合があります。色覚への配慮(CUD)、画面読み上げソフト対応、文字サイズ変更機能などを取り入れ、誰でも情報にアクセスしやすいように設計されていることをアピールします。
7. ユニバーサルデザインの今後の展望
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高齢化社会への対応
日本は世界でも有数の高齢化社会へと進んでいるため、ユニバーサルデザインのニーズは今後ますます高まると考えられています。特に住居や交通機関、公共施設の設計においては、ユニバーサルデザインが当たり前になる可能性が高いです。 -
インバウンド需要への対応
日本を訪れる外国人旅行者(インバウンド)の増加傾向を受け、言語の壁を超えた多言語対応ピクトグラムなど、国際的に通じやすいデザインの重要性が高まっています。ユニバーサルデザインマークによる施設案内は、訪日客の利便性アップにもつながります。 -
ICT分野の拡充
5GやIoT時代の到来に伴い、スマホを介した情報取得やネット上の手続きが日常化しています。デジタル格差を是正するためにも、オンラインサービスやデバイスの操作画面へのユニバーサルデザイン導入が一段と注目されるでしょう。
8. まとめ
ユニバーサルデザインマークは、多様な人々に配慮した設計やサービスを提供していることを「わかりやすく」示すための目印として機能します。車いすマーク(国際シンボルマーク)をはじめ、自治体やNPO、企業が独自に運用している認証マークなど、その種類はさまざまです。共通しているのは「誰もが使いやすい世界を目指す」というユニバーサルデザインの思想をビジュアル化・象徴化している点です。
高齢化や多文化共生社会が進行するなか、ユニバーサルデザインマークは今後ますます身近な存在になっていくでしょう。利用者としては、マークを活用して「ここなら安心して利用できそうだ」と判断できるメリットがあります。一方、企業や施設にとっては社会的責任(CSR)を果たすだけでなく、製品やサービスの信頼性向上という大きなメリットにもつながります。
ユニバーサルデザインマークを“貼ること”がゴールではなく、常にユーザーの声を聞き、改善を続けていく姿勢が本来のユニバーサルデザインのあり方です。マークを通じて、一人でも多くの人が快適に、安心して利用できる社会の実現に近づいていけることを願います。
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